超音波温熱で拘縮を改善する|コラーゲン伸展性とストレッチウィンドウの科学【連載②】

超音波温熱 照射後の組織温度変化と、拘縮改善に有効なストレッチウィンドウ(3分間)を示したグラフ。 柔整・鍼灸・ATその他専門的観点の記事
【重要】超音波照射終了後、組織温度が下がるまでの約3分間が「ストレッチウィンドウ」です。この間にストレッチを行わなければ、拘縮改善効果は激減します。

こんにちは、柔道整復師の治療家Zです。

物理療法機器の使い分けを深掘りする連載、第2回です。

前回は、機器ごとのエネルギー変換の違いをお話ししました。

今回は、その中でも「スナイパー(狙撃手)」の異名を持つ超音波治療器(US)について、臨床的な真髄に迫ります。

先生方は、超音波温熱をどのような目的で使用していますか?

「疼痛緩和」? もちろんです。

「微小マッサージ」? それもあります。

しかし、もし先生が「関節の拘縮(可動域制限)」に悩む患者さんを担当しているなら、超音波の最大の役割は「コラーゲン線維の粘弾性を変えること」にあります。

今回は、ただ漫然と当てるだけでは絶対に得られない、組織構造を変えるための「本気の超音波温熱」プロトコルを解説します。


ターゲット温度は「40℃〜45℃」

まず、生理学的なゴールを明確にしましょう。

関節包、靭帯、腱、瘢痕組織。これらは主にコラーゲン線維で構成されています。

硬くなった(拘縮した)コラーゲン線維を伸ばすためには、何度まで温めればよいのでしょうか?

答えは、「40℃〜45℃」です。

研究によると、組織温度をこのレベルまで上昇させることで、コラーゲン線維の結合が一時的に緩み、「伸展性(Extensibility)」が飛躍的に増大することが分かっています。

逆に言えば、この温度に達しない「なんとなく暖かい」レベルの超音波温熱では、拘縮組織の構造的変化は期待できません。

パルス波ではなく「連続波(100%)」を使う

ここで重要になるのが「デューティー比(Duty Cycle)」の設定です。

多くの先生が、急性期の癖で「20%」や「50%」のパルス波を使っていませんか?

  • 20%〜50%(パルス波): 熱を発生させない「非熱効果」がメイン。急性期の炎症や骨折治癒促進(LIPUS)に使用。
  • 100%(連続波): 熱を蓄積させる「温熱効果」がメイン。拘縮除去に使用。

拘縮に対しては、迷わず「100%(連続波)」を選択してください。

途切れ途切れのパルス波では、コラーゲンを変性させる40℃の壁を超えることは困難です。

【根拠となる文献:温度とコラーゲン伸展性】

文献: Lehmann JF, et al. Effect of therapeutic temperatures on tendon extensibility. Arch Phys Med Rehabil. 1970.
URL:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/5486490/
解説: 物理療法の古典的な重要論文。ラットの腱を用いた実験で、45℃まで加熱することで組織の伸展性が著しく増加し、より少ない力で持続的な組織延長が可能になることを証明しています。


ゴールデンタイムは「直後」の3分間

超音波温熱拘縮組織を40℃以上に温めました。

「はい、終わりました。お大事に」 これでは、治療効果はゼロです。

なぜなら、超音波で温まった組織は、照射を止めた瞬間から急速に冷え始めるからです。

ここで重要になる概念が「ストレッチウィンドウ(Stretch Window)」です。

鉄は熱いうちに打て

ストレッチウィンドウとは、「組織温度が上昇し、伸展性が高まっている有効時間」のことです。

深部組織の場合、照射終了後、温度がベースラインに戻るまでの時間は非常に短く、「約3分〜5分」と言われています。

つまり、拘縮治療における超音波は、それ単体で完結するものではありません。

「照射しながらストレッチ」または「照射直後に間髪入れずストレッチ」を行わなければ、せっかく緩んだコラーゲンが再び硬まってしまうのです。

私の臨床では、プローブを当てながら関節運動を行う「ダイナミック・ウルトラサウンド」や、照射直後にモビライゼーションを行う手順を徹底しています。

【根拠となる文献:ストレッチウィンドウ】

文献: Draper DO, et al. Temperature changes in deep muscles of humans during and after therapeutic ultrasound. J Orthop Sports Phys Ther. 1995.
URL:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/8534887/
解説: 超音波照射後の組織温度の降下速度(クーリングカーブ)を測定した研究。治療終了後、約3.3分で有効な温熱効果が失われることが示唆されており、照射直後のストレッチの重要性を裏付けています。


「骨膜痛」を防ぎ、効率よく温める技術

超音波温熱拘縮を狙う際、最大の敵となるのが「骨膜痛(Periosteal Pain)」です。

患者さんが「あ!熱い!痛い!」と感じるアレです。

これは、超音波が骨の表面で反射し、入射波と反射波がぶつかってエネルギーが増幅される「定在波(Standing Wave)」や、一時的な高熱点「ホットスポット」ができることで発生します。

プロのプローブ操作(BNRを意識する)

これを防ぎつつ、効率よく温めるためのポイントは2つです。

  1. プローブを止めない: 常に動かし続けること(ムービングテクニック)。
    ただし、早く動かしすぎるとエネルギーが分散して温度が上がりません。
    「1秒間に3〜4cm」程度のゆっくりとした螺旋運動が理想です。
  2. 照射面積を欲張らない: 有効照射面積(ERA)の2倍〜3倍の範囲に留めること。
    広い背中を小さなヘッドで温めようとしても、温度が上がる前に冷えてしまいます。
    拘縮部位(例:肩関節後方関節包)にピンポイントで集中させましょう。

【法務的視点】「熱い」と言える環境作り

ここでリスク管理の話を少し。

超音波温熱による熱傷(火傷)事故は、判例でも散見されます。

特に、患者さんが「熱いと言ったら悪いかな」と我慢してしまい、深部で火傷を負うケースです。

施術前には必ず、 「骨に響くような痛みや、ジリジリする熱さを感じたら、すぐに教えてください。それは効いているのではなく、火傷しそうな合図です」 と明確に伝え、インフォームド・コンセントを得ておくことが、患者さんの身体と、先生の資格を守ることに繋がります。


臨床プロトコル:拘縮除去の5ステップ

では、ここまでの話を実際の臨床手順に落とし込みます。 ターゲットは「凍結肩(拘縮期)」の関節包とします。

  1. ポジショニング: 関節包が最もストレッチされる肢位(またはその手前)にセットします。組織を伸張させた状態で照射すると、熱吸収効率が良いというデータもあります。
  2. 設定:
    • 周波数:1MHz(関節包は深部にあるため)
    • デューティー比:100%(連続波)
    • 強度:1.0〜1.5 W/cm²(患者の温感に合わせて調整)
    • 時間:8分〜10分(40℃に達するのに必要な時間)
  3. 照射: 患部の2〜3倍の範囲で、ゆっくりプローブを動かす。骨膜痛が出ないギリギリの「しっかりとした温感」を維持。
  4. ストレッチ(ここが勝負!): 照射終了後、即座に(0秒で)プローブを置き、持続的な伸張ストレッチ、または関節モビライゼーションを行う。 ※ストレッチウィンドウは3分しかありません!
  5. 冷却(任意): 伸ばした位置で組織を安定させたい場合、伸張位のままアイシングをして、コラーゲンをその長さで再結合させる(プラスティック・セット)という考え方もあります。

まとめ:超音波温熱は「準備」であり「本番」ではない

超音波温熱拘縮は治るのか?

答えは、「超音波だけでは治らないが、超音波なしで治すのは非常に非効率」です。

超音波は、硬い組織を「粘土」のように柔らかくするツールです。

柔らかくなった粘土を、先生の手技(ストレッチ)で「形を変える」ことで初めて、拘縮が改善し、可動域が広がります。

「温めて終わり」にしていませんか?

その後の3分間(ストレッチウィンドウ)こそが、治療の成果を決めるゴールデンタイムなのです。

この記事を書いた人

臨床20年の柔道整復師 × 法律家(学習中)|身体と暮らしを守る専門家

はじめまして、治療家Zと申します。 柔道整復師(国家資格)として開業し、十数年。これまでの20年間で延べ6万人以上(①ヶ月300人程なので、合っていると思います)の患者様の治療に携わってきました。

現場で多くの「痛み」と向き合う中で痛感したのは、「正しい医療知識」と「生活を守る法律知識」の両方がなければ、本当の意味で患者様の不安を取り除くことはできないということです。

そのため、臨床の傍ら法務の学習も進め、2025年には宅地建物取引士試験に合格。現在は2026年の行政書士試験合格を目指し、日々研鑽を積んでいます。

このブログでは、単なる健康情報の発信にとどまらず、解剖学・生理学等に基づいた「確かな医療知識」と、薬機法や関連法規を遵守した「信頼できる情報」を、柔整と法務のダブル視点からお届けします。

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