「ストレスと痛みとドーパミン」
こんにちは、治療家Zです。
「脳と痛み」をテーマにした連載、第3回です。
第1回: 痛みの正体は、脳の誤作動(火災報知器の故障)である。
第2回: 天気痛は、気圧センサーと自律神経の暴走で起きる。
これまでは「身体の仕組み」や「天気」といった視点でお話ししましたが、今回はもっと身近で、もっと強力な痛みの増幅装置についてお話しします。
それが、「心(感情)」です。
「趣味に没頭している時は、腰の痛みを忘れている」 「嫌な上司の顔を見た瞬間、胃や頭が痛み出す」 「心配事があると、いつもの肩こりがひどく感じる」
こんな経験はありませんか?
「病は気から」という言葉がありますが、最新の脳科学では、これが単なる精神論ではなく、「脳内物質の化学反応」であることが証明されています。
第3回は、あなたの脳の中に備わっている「天然の痛み止めシステム」と、それを無効化してしまうストレスの恐怖について解説します。
脳には「痛みを消す機能」が備わっている
いきなりですが、重要な事実をお伝えします。
私たちの脳は、ただ痛みを感じるだけの受け身な臓器ではありません。
実は、「入ってきた痛みを、脳の判断でシャットアウトする(消す)」という、ものすごい機能を持っています。
これを専門用語で「下行性疼痛抑制系(かこうせい・とうつう・よくせいてい)」と呼びます。 漢字ばかりで難しそうですが、仕組みは簡単です。
- 痛みの信号が来る: 患部から「痛い!」という信号が脳へ向かう。
- 脳が判断する: 脳が「今は戦っている最中だ!痛みを感じている場合じゃない!」や「楽しいことに集中したい!」と判断する。
- 痛み止めを出す: 脳から脊髄へ向けて「痛みの信号を通すな!」という命令(鎮痛物質)が出る。
- ゲートが閉じる: 脊髄にある痛みの関所(ゲート)が閉じられ、痛みを感じなくなる。
スポーツ選手が試合中に怪我をしても痛みを感じず、試合が終わった途端に激痛が走るのは、このシステムが全力で働いていたからです。
🔬【根拠となる文献:脳の鎮痛システム】
- 文献: 疼痛抑制のメカニズム(日本ペインクリニック学会)
- URL:https://www.jspc.gr.jp/Igakusei/igakusei_key03.html
- 解説: 脳幹(のうかん)から脊髄へと下る神経経路が、痛みの伝達を遮断する仕組みについて医学的に解説されています。人間には本来、薬を使わなくても痛みをコントロールする力が備わっているのです。
システムを動かす燃料は「ドーパミン」
この素晴らしい「天然の痛み止めシステム」を動かすための燃料(ガソリン)となるのが、「ドーパミン」などの脳内神経伝達物質です。
ドーパミンは、別名「快楽ホルモン」や「やる気ホルモン」とも呼ばれます。
- 美味しいものを食べた時
- 趣味を楽しんでいる時
- 人から褒められた時
- 目標を達成した時
こういった「ワクワクする」「嬉しい」という感情が生まれた時、脳内にはドーパミンがドバドバとあふれ出します。
ドーパミンが出ている間、脳の鎮痛システムは最強の状態になります。
だから、楽しいことをしている時は、少しくらい身体が悪くても痛みを感じないのです。
🔬【根拠となる文献:ドーパミンと鎮痛】
- 文献: Dopamine and Pain Modulation in the Brain (Frontiers in Neuroscience)
- URL:https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fnins.2016.00289/full
- 解説: ドーパミンが脳の線条体(せんじょうたい)などで作用し、痛みの感覚を抑制することを詳細に記した論文です。「喜び」を感じる回路と「痛みを抑える」回路は、密接にリンクしていることが分かります。

ストレスは「痛み止め」を枯渇させる
ここで今回のテーマ、ストレスの登場です。
長期間のストレス(不安、怒り、恐怖、抑うつ)にさらされると、脳はどうなるでしょうか?
- ドーパミンが出なくなる: 「楽しい」「嬉しい」を感じる余裕がなくなり、ドーパミンの分泌が激減します。
- 鎮痛システムが停止する: 燃料であるドーパミンがないため、「痛みを抑えろ!」という命令が出せなくなります。
- 痛みのゲートが全開になる: 本来ならシャットアウトできていたはずの小さな痛みまで、そのまま脳へ直撃するようになります。
これが、「ストレスでドーパミンを枯らし、痛みが増す」医学的な正体です。
患部の状態が悪化したわけではありません。
脳の防御シールド(鎮痛システム)が消滅し、「痛みに対して丸腰の状態」になってしまったのです。
うつ病の患者さんが、体のあちこちに原因不明の痛みを訴えることが多いのも、この脳内物質の枯渇が関係していると考えられています。
🔬【根拠となる文献:ストレスと痛みの悪循環】
- 文献: 慢性疼痛とストレスの関連性(厚生労働省「こころの耳」)
- URL:https://kokoro.mhlw.go.jp/
- 解説: 心理的なストレスが自律神経や脳内ホルモンに影響を与え、痛みを慢性化させる「心身相関(しんしんそうかん)」について言及されています。ストレスケアが痛みの改善に不可欠であることが示されています。
まとめ:小さな「ワクワク」が治療になる
今回のポイントをまとめます。
- 脳は痛みを消せる: 私たちには「下行性疼痛抑制系」という天然の鎮痛機能がある。
- ドーパミンが鍵: この機能を作動させるには、ドーパミン(快楽・やる気)が必要。
- ストレスは大敵: ストレスはドーパミンを枯らし、痛みのゲートを全開にしてしまう。
治療院の現場で、私が患者さんに「何か趣味はありますか?」「最近、笑っていますか?」と聞くのは、世間話ではありません。
あなたの中に眠っている「最強の痛み止め(ドーパミン)」を引き出すための、立派な治療アプローチ(整体)の一つなのです。
痛いからといって、部屋に閉じこもって痛みのことばかり考えていると、ますますドーパミンは減ってしまいます。
少し無理をしてでも、好きな音楽を聴いたり、美味しいコーヒーを飲んだりして、脳に「ご褒美」をあげてください。
その小さなワクワクが、薬よりも効く鎮痛剤になるかもしれません。
さて、ここまで「脳の誤作動」「自律神経」「ストレス」と、目に見えない原因を探ってきました。 次回は、これらをリセットするための「具体的な技術」をお伝えします。
第4回は、「脳の誤作動をリセットする技術|『呼吸』と『睡眠』が最強の治療薬」です。
誰でも今日からできる、脳のメンテナンス方法。お楽しみに。





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