手のふるえは年のせいと思っていたら、実はそれが病気のサインだった。
気づいたときには体が動かしづらくなっていた…そんな事態を防ぐために。
こんにちは、治療家Zです。
歌手・俳優である美川憲一さんがパーキンソン病で療養していましたね。
会見まで開かれてパーキンソン病の病気について語っていましたが、難病であるパーキンソン病とは何なのでしょうか。
そして、治療家である我々には何ができるのでしょうか。
パーキンソン病とは何か?
パーキンソン病は、脳の一部(中脳の黒質)にあるドパミン神経細胞が減少することにより発症する進行性の神経変性疾患です。
1817年にイギリスのジェームズ・パーキンソンによって初めて報告され、その名前にちなんで命名されました。
この病気の特徴は、運動機能をスムーズに調節する役割を持つ神経伝達物質「ドパミン」が不足することです。
ドパミンが減少すると、脳からの運動指令が体にうまく伝わらなくなり、体を動かしにくくなったり、ふるえが出たりするなどの症状が現れます。
日本におけるパーキンソン病の有病率
| 区分 | 患者数/有病率 | 備考 |
|---|---|---|
| 総人口 | 10万人あたり100~150人 | 日本では約29万人の患者がいると推定 |
| 65歳以上 | 100人に約1人 | 高齢化に伴い患者数は増加傾向 |
| 世界的傾向 | 世界的に急増中 | 「パーキンソンパンデミック」と表現されることも |
一般的には50~65歳に発症することが多いとされていますが、高齢になるほど発症率は増加します。
また、稀に40歳以下で発症する「若年性パーキンソン病」も存在します。
パーキンソン病が起きる原因と遺伝子要因
根本的な原因とメカニズム
パーキンソン病の直接的な原因は完全には解明されていませんが、現在の研究では以下のようなメカニズムが分かっています。
1. ドパミン神経細胞の減少
中脳の黒質という部位にあるドパミン産生細胞が徐々に減少し、脳内のドパミン量が不足します。
この細胞が約半分まで減少すると症状が現れると考えられています。
2. タンパク質の異常蓄積(レビー小体)
神経細胞内にα-シヌクレインというタンパク質が凝集して溜まることが関与しているとされています。
これらの凝集体は「レビー小体」と呼ばれ、神経細胞に毒性をもたらし、細胞死を引き起こすと考えられています。
3. 遺伝的要因
パーキンソン病の約90%は「孤発性」と呼ばれ、明確な家族歴がない場合がほとんどです。
しかし、約5~10%は家族内に同様の病気の方がいる「家族性パーキンソン病」とされています。
特に若年発症の場合(50歳未満)、遺伝的要因の関与がより大きい可能性があります。
遺伝性パーキンソン病に関連する遺伝子としては、LRRK2、PARK2(PRKN)、PINK1などが知られています。
リスク要因と環境因子
特定の原因は不明ですが、以下の要素がリスク要因として指摘されています:
- 加齢:最も重要なリスク因子で、60歳を超えると罹患率が増加
- 環境要因:農薬や特定の化学物質への長期曝露
- 頭部外傷:繰り返される頭部外傷(コンタクトスポーツなど)
前兆や疑いのある時の症状―早期発見のチェックポイント
4大運動症状
パーキンソン病の代表的な運動症状は以下の4つです。
1. 振戦(しんせん)
安静時に手、足、あごや頭部に起こるふるえです。特徴として:
- 動作をすると軽減または消失する
- 左右どちらかにより強く現れることが多い
- 指で丸薬を丸めるような動き(ピルローリングトレマー)が典型的
2. 筋強剛(きんきょうごう)
筋肉が常に緊張した状態になり、関節を動かす際に抵抗を感じます。
医師が患者の腕を動かした際に、カクカクとした「歯車現象」や一定の抵抗を感じる「鉛管様固縮」として確認されます。
3. 無動・動作緩慢(むどう・どうさかんまん)
動作が全体的に遅くなり、運動の大きさや量が減少します。
具体的には:
- 歩行が遅く、歩幅が狭くなる(小刻み歩行)
- 瞬きが少なく、表情が乏しくなる(仮面様顔貌)
- 声が小さく、単調になる
- 字が次第に小さくなる(小字症)
4. 姿勢反射障害
バランスをとる機能が低下し、姿勢を保持することが困難になります。
軽く押されただけで倒れやすくなり、方向転換時に特に不安定さが目立ちます。
運動症状以外の「非運動症状」―早期発見の鍵
運動症状が現れる数年前から以下のような非運動症状が現れることが知られています。
自律神経症状
- 便秘(最も頻度の高い非運動症状)
- 起立性低血圧(立ちくらみ)
- 排尿障害(頻尿が多い)
- 発汗過多
精神・睡眠症状
- 抑うつ状態、無気力(アパシー)、不安
- レム睡眠行動障害:睡眠中に大声を出したり、暴れたりする
- 嗅覚の低下(コーヒーや石けんの匂いがわからない)
日常生活で気づく早期サイン
以下のような変化に気づいたら注意が必要です:
- 字が小さく、下手になった
- 小声でぼそぼそ話すようになった
- 歩く時に足が引っかかったり、すり足になった
- 顔の表情が乏しくなった(仮面様顔貌)
- 小銭の出し入れやボタンかけがしづらくなった
- 肩凝りが急にひどくなった
特に注意すべき点:これらの症状は「年のせい」と誤解されがちですが、パーキンソン病の初期症状である可能性があります。
自分では気づかず、家族や周囲の人が異変に気づくことも多いです。
パーキンソン病か心配な人はどうしたら良いのか?
受診のタイミングと適切な診療科
以下のような症状がある場合は、早期に医療機関を受診することをお勧めします:
- 動作が全体的に遅く、体が重いと感じる
- 片側の手や足だけ動かしにくい、またはふるえが続く
- 歩き方が変わった(歩幅が狭い、腕を振らないなど)
- 日常動作(着替え、食事、書字)に時間がかかるようになった
- 便秘や嗅覚低下などの非運動症状が気になる
適切な診療科は「神経内科」です。
特に運動障害を専門とする神経内科医が最も適切な診断と治療を行えます。
診断までのプロセス
パーキンソン病の診断には特定の単一検査はなく、以下のような総合的な評価が行われます。
1. 詳細な問診と神経学的検査
医師は症状の経過、家族歴、生活環境などを詳しく聞き、神経学的検査を行います。
特に運動症状の特徴(左右差、安静時振戦の有無など)を注意深く観察します。
2. 鑑別診断のための検査
パーキンソン病と似た症状を示す他の病気(パーキンソン症候群)を除外するために、以下の検査が行われることがあります:
- 頭部MRI/CT:脳梗塞、脳腫瘍、正常圧水頭症などを除外
- 血液検査:甲状腺機能異常やビタミン欠乏症などを除外
- DATスキャン(ドーパミントランスポーターシンチグラフィ):脳内のドパミン神経の状態を評価
3. 薬物反応テスト
パーキンソン病治療薬(主にレボドパ製剤)を試し、症状が改善するかどうかを確認することもあります。
パーキンソン病では多くの場合、この薬剤に対して良好な反応を示します。
早期診断・早期治療の重要性
パーキンソン病は現時点では完治させる治療法はありませんが、早期に診断し適切な治療を開始することで:
- 症状の進行を遅らせることができる
- 生活の質(QOL)を長期間維持できる
- 合併症(転倒による骨折など)を予防できる
治療院においてパーキンソン病と疑うべき兆候や行動
整骨院、鍼灸院、マッサージ院などを訪れる患者さんの中にも、パーキンソン病の初期症状を示す方がいらっしゃる可能性があります。
以下のような兆候に気づいた場合、パーキンソン病を疑うべきです。
姿勢と動作の特徴
- 前かがみの姿勢で、歩く時に腕を振らない
- 小刻み歩行:歩幅が狭く、すり足で歩く
- すくみ足:歩き始めや方向転換時に足が地面に張り付いたようになる
- 加速歩行:歩き出すとだんだん速くなり、止まれなくなる
- 方向転換がぎこちなく、まるで銅像が回転するように回る
身体所見のポイント
- 仮面様顔貌:表情が乏しく、瞬きが少ない
- 歯車現象:上肢を動かすとカクカクとした抵抗がある
- 鉛管様固縮:下肢を動かすと一定の抵抗がある
- 斜め徴候:ベッドで斜めに寝ていたり、座っている時に体を斜めに傾けている
簡易テスト
- 眉間叩打テスト(マイアーソン徴候):眉間を繰り返し軽く叩くと、瞬目が持続する
- 筆記テスト:字を書かせると、次第に文字が小さくなる(小字症)
これらの兆候を認めた場合、適切な医療機関(神経内科)への受診を勧めることが重要です。
特に「長引く肩こり」や「原因不明の痛み」を主訴に来院される方の中に、実はパーキンソン病の初期症状である場合があります。
パーキンソン病の患者に施術をするときの注意点
パーキンソン病患者に対して施術(リハビリテーション、運動療法、マッサージなど)を行う際には、以下の点に特に注意が必要です。
1. 薬剤の効果時間を考慮する
パーキンソン病治療の基本は薬物療法(主にレボドパ製剤)です。
この薬剤は効果が時間とともに変動する特徴があります:
- オン期:薬が効いている時間帯、比較的動きやすい
- オフ期:薬の効果が切れている時間帯、動きにくさが増す
施術やリハビリは、可能な限りオン期を狙って行うことが効果的です。
患者さんの「症状日誌」を参考に、症状の変動パターンを把握しておくと良いでしょう。
2. 転倒予防に細心の注意を
姿勢反射障害があるため、転倒リスクが高いです。
施術時には:
- 立ち上がり、方向転換時には特に注意する
- 狭い場所での移動は避けるか、十分なサポートを提供する
- 床の状態(滑りやすさ、段差)に注意する
3. コミュニケーション方法の工夫
- 無動により声が小さく単調になるため、話をよく聞き取る
- 仮面様顔貌で表情が読み取りづらいため、言葉での確認を大切にする
- 認知機能の変化に対応し、説明は簡潔に、繰り返し行う
4. 自律神経症状への配慮
- 起立性低血圧がある場合、急な起立を避ける
- 発汗過多や体温調節障害に配慮し、室温管理に注意する
- 便秘がある場合、腹部マッサージなどは医師と相談の上行う
5. リハビリテーションのポイント
運動療法はパーキンソン病の進行を遅らせ、機能維持に重要です。
- 有酸素運動:ウォーキング、水泳など
- バランス訓練:姿勢反射障害の改善を目指す
- ストレッチ:筋強剛の緩和に効果的
- 二重課題訓練:歩きながら計算するなど、複数の課題を同時に行う訓練
6. 精神的サポートの重要性
抑うつや意欲低下(アパシー)はパーキンソン病によく見られる症状です。
施術者は:
- 患者の気持ちに寄り添い、共感的な態度を保つ
- 小さな進歩を認め、達成感を味わえるようにする
- 孤立感を軽減するため、社会参加を促す
まとめ
パーキンソン病は、脳内のドパミン不足によって引き起こされる進行性の神経疾患です。
早期発見と適切な治療により、症状の進行を遅らせ、生活の質を長期間維持することが可能です。
大切なのは、「年のせい」と見過ごさず、気になる症状があれば早めに神経内科を受診することです。
また、治療に携わる専門家は、パーキンソン病の特徴を理解し、患者さん一人ひとりの状態に合わせた適切なアプローチを行うことが求められます。
パーキンソン病に関する理解が深まることで、患者さんとそのご家族がより良い生活を送れるよう支援できる社会の実現に、この記事が少しでも貢献できれば幸いです。
パーキンソン病に関する知識ポイント
- 主要症状:安静時振戦、筋強剛、無動・動作緩慢、姿勢反射障害の4つ
- 早期サイン:小字症、小声、すり足、仮面様顔貌、嗅覚低下、便秘
- 受診科:気になる症状があれば「神経内科」へ
- 基本治療:薬物療法(レボドパ製剤など)が中心。リハビリも重要
- 治療時の注意:薬効の変動を考慮し、転倒予防に最大限の注意を
参考文献
以下、ブログ記事を執筆するのに参考にした文献です。
ぜひ、ご覧になってみてください。
日本文献
日本の患者データや臨床現場に基づく実践的な知見、治療ガイドラインなど、日本特有の状況や視点を提供しています
| 文献タイトル・出典 | 著者 / 発行機関 | 内容と記事における参照ポイント |
|---|---|---|
| Functional outcomes in older patients after Parkinson’s disease diagnosis in Japan: The LIFE study | Y. Sakakibara, K. Tanaka, M. Hattori, et al. | 診断時および診断1年後の要介護状態について、国内大規模データを用いた研究。記事内で日本の患者数や高齢化社会における介護ニーズの増加について言及する根拠として想定。 |
| パーキンソン病患者の疲労に関連する因子の検討 | 日本神経学会 | パーキンソン病の重要な非運動症状「疲労」 についての臨床研究。記事内で非運動症状(うつ、アパシー、睡眠障害など)がQOLに大きく影響する点や、女性患者に関する記述の根拠として想定。 |
| 精神神経学雑誌 第127巻第7号 「精神科と脳神経内科の壁について考える」 | 西尾 慶之 | パーキンソン病に典型的な精神症状(うつ、幻覚、衝動制御障害など) について詳細に概観した論考。記事内の非運動症状の章、特に精神症状や治療(ドパミン補充療法)に伴う副作用の説明の背景情報として想定。 |
| Persistence and adherence to levodopa adjunct medications…in Japanese patients with Parkinson’s disease (PD) | K. Kitagawa, J. Chuma, K. Mishina, et al. | 日本の患者を対象としたレボドパ併用薬の服薬継続率とアドヒアランス(服薬遵守) に関する研究。記事の「患者への治療時の注意点」で服薬管理の重要性や、薬剤の継続的な調整の必要性を説明する根拠として想定。 |
海外文献
疾患の世界的な動向、最新の病因研究、治療法の開発など、広い視野と先端的な知見を提供しています。
| 文献タイトル・出典 | 著者 / 発行機関 | 内容と記事における参照ポイント |
|---|---|---|
| Understanding Parkinson’s disease: current trends and its future prospects | F. H. Sarkar, S. K. Singh, et al. | パーキンソン病の分子メカニズム、遺伝的・環境的要因、最新治療動向を包括的にレビューした総説。記事全体の基礎的な病理説明(α-シヌクレイン、遺伝子LRRK2等)、世界的な患者数予測、AI診断支援などの新技術の記述の基盤として想定。 |
| Scientists Discover a Possible Environmental Trigger for Parkinson’s Disease | I. Koralnik, B. Hanson, et al. (Northwestern Medicine) | 一般的に無害とされるヒトペギウイルス(HPgV) がパーキンソン病の環境トリガーとなりうる可能性を示した最新研究。記事内で、ほとんどの症例が孤発性であり環境要因が関与するという記述を補強する具体的な例証として想定。 |
| Research Breakthroughs Lead to Potential New Parkinson’s Drug | R. B. Mailman, X. Huang, et al. (University of Virginia) | 半世紀ぶりの新機序薬として期待されるD1ドパミン受容体選択的作動薬「タバパドン(tavapadon)」 の開発経緯と臨床試験結果について。記事の「治療」の章で、レボドパに次ぐ新たな治療選択肢の可能性について言及する根拠として想定。 |
| Inhibiting enzyme could halt cell death in Parkinson’s disease, study finds | E. Jaimon, S. Pfeffer, et al. (Stanford Medicine) | LRRK2酵素の阻害が、遺伝性パーキンソン病のマウスモデルで神経細胞死を止め、症状改善の可能性さえ示した研究。記事内の「原因と遺伝的要因」で触れる遺伝子治療・疾患修飾療法の将来展望を具体化する事例として想定。 |



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