宮大工でも「腐った木材」で家は建てられない
こんにちは、治療家Zです。
先生の院に、こんな患者さんはいませんか?
「施術した直後は『楽になった!』と言うけれど、3日後には『また痛くなりました』と戻ってくる人」
技術不足を疑い、新しい手技セミナーに通い、椎体アジャストや筋膜リリースを極める…。
その向上心は素晴らしいです。 しかし、もし原因が「手技」の外側にあったとしたら?
家を建てる大工さんを想像してください。
どれだけ腕利きの宮大工でも、「シロアリに食われたスカスカの木材」を使って、頑丈な家を建てることはできますか? 無理ですよね。
すぐに傾いてしまいます。
人間の体も同じです。
私たちの手技は「設計と組み立て」です。
でも、患者さんの体という「材料(細胞の素材)」自体が欠陥だらけだったら?
連載第1回のテーマは、現代人の9割が陥っている「質的栄養失調」。
血液データから「治らない身体」の正体を暴き、施術の効果を底上げする分子栄養学(オーソモレキュラー)のアプローチを解説します。

現代人は「カロリー」で満たされ、「栄養」で飢えている
「栄養失調」と聞くと、戦後の食糧難や飢餓をイメージするかもしれません。
それは「量的栄養失調(カロリー不足)」です。
現代日本で起きているのは、全く逆の現象です。
糖質(おにぎり、パン、麺)でカロリーは十分に足りている。しかし、そのカロリーを代謝し、身体を作るための「ビタミン・ミネラル・タンパク質」が圧倒的に不足している状態。
これを、「質的栄養失調」(または新型栄養失調)と呼びます。
治療家が知るべき「負の方程式」
- 糖質過多: エネルギー代謝(ATP産生)のために、ビタミンB群やマグネシウムを大量消費する。
- 材料不足: タンパク質や鉄が入ってこないため、組織の修復が追いつかない。
結果、身体は「ガス欠の車」のようになり、筋肉は硬直し、痛みに対して過敏になります。
これが「慢性痛」や「不定愁訴」の正体の一つです。
血液検査データの読み方:貧血のない「鉄不足」を見抜け
では、どうやって「材料不足」を見抜くのか?
健康診断の血液検査データを持ってきてもらいましょう。
注目すべきは「ヘモグロビン(Hb)」ではありません。
見るべきは、「フェリチン(貯蔵鉄)」です。
「財布のお金」と「銀行の貯金」
- ヘモグロビン(Hb): 財布の中のお金。日常の酸素運搬に使う。減ると命に関わるため、身体は必死で維持しようとする。
- フェリチン(Ferritin): 銀行の貯金。いざという時のためのストック。
一般的な健診ではHbしか見ないため、「貧血なし(A判定)」とされます。
しかし、実は貯金(フェリチン)がゼロに近い「潜在性鉄欠乏(隠れ貧血)」の女性が、日本には溢れかえっています。
なぜ「鉄」が治療に関係するのか?
ここが最重要ポイントです。
鉄は、単に血液を作るだけではありません。
細胞の中にあるミトコンドリアがエネルギー(ATP)を生み出す際、「電子伝達系」という回路を動かすための必須触媒なのです。
- 鉄不足 = ミトコンドリアが動かない = エネルギーが作れない
- 症状: 慢性的な肩こり、冷え、朝起きられない、うつ症状、筋肉の緊張が取れない。
フェリチン値が30ng/mL以下(理想は100以上)の患者さんに、いくらマッサージをしても「エネルギー不足」は解消しません。
まずはヘム鉄などで「貯金」を増やすことが、回復への第一歩なのです。
筋肉もホルモンも「タンパク質」でできている
次にチェックすべきは、「BUN(尿素窒素)」という数値です。
これは腎機能の指標として使われますが、分子栄養学では「タンパク質の摂取・吸収量」の目安として見ます。
人間の体(筋肉、骨、皮膚、内臓、血液)は、水分を除けばほとんどがタンパク質です。
さらに言えば、やる気を出す「ドーパミン」や、安らぎを与える「セロトニン」といった神経伝達物質も、アミノ酸(タンパク質)から作られます。
BUNが低い=材料が入ってきていない
もしBUNが「10mg/dL以下」であれば、明らかにタンパク質不足です。
- 筋肉を揉んでも、修復するための材料(プロテイン)がない。
- 自律神経を整えたくても、神経伝達物質の材料がない。
この状態で施術を繰り返すのは、「レンガのない現場で、必死に家を建てようとしている」のと同じです。
高吸収なプロテインやアミノ酸(EAA/BCAA)の摂取を提案し、まずは「身体の材料」を満たすことが先決です。
薬機法を守った「患者さんへの伝え方」
ここで注意が必要です。
私たち治療家は医師ではないため、「鉄サプリでうつが治ります」や「プロテインで腰痛が消えます」と断言してはいけません(薬機法違反になります)。
あくまで「生理学的なメカニズム」と「栄養補給の必要性」として伝えてください。
【OKトーク例】 「〇〇さんの血液データを見ると、身体を動かすエネルギーを作るための『鉄分』や、筋肉の材料になる『タンパク質』が少し足りていない可能性があります。
車で例えると、今はガソリンと部品が足りない状態で走っているようなものです。 施術で骨格という『フレーム』は整えますので、食事やサプリメントで『ガソリンと部品』を補給してあげると、身体の持ちが全然変わってくると思いますよ。」
これなら、診断行為にもならず、患者さんも納得して「何を買えばいいですか?」と聞いてくれるはずです。
まとめ:治療家よ、「栄養」という武器を持て
- 質的栄養失調: カロリーはあるが、ビタミン・ミネラル・タンパク質が枯渇している。
- フェリチン(鉄): エネルギー産生(ATP)の要。不足すると慢性痛や不調の原因になる。
- BUN(タンパク質): 身体の主要な構成要素。低い場合は材料不足。
「手技」×「栄養」。 この掛け算ができるようになった時、あなたの治療院は「ただ揉んでくれる場所」から、「身体を根本から作り直してくれる場所」へと進化します。
さて、材料(鉄・タンパク質)を入れたとしても、それが「吸収」されなければ意味がありませんよね?
実は、多くの日本人が「腸に穴が開いていて、栄養が漏れている」としたら…。
次回、第2回は【吸収不全編】「ザルになった腸を塞げ|リーキーガットと脳内炎症」をお届けします。
小麦と牛乳が引き起こす、知られざる「腸脳相関」の闇に迫ります。
お楽しみに!



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