皆さん、こんにちは。
18年間、柔道整復師としてスポーツ現場と院の両方で多くのアスリートと向き合ってきた、治療家Zです。
二人の子どもを育てる中で、体のケアの大切さは痛感しています。
今日は、世界中のサッカーファンをざわつかせているニュース、キリアン・ムバッペ選手の負傷疑惑について、筋肉系の専門家として考えてみたいと思います。
ESPNによると、レアル・マドリードとマンチェスター・シティの大一番への出場が危ぶまれているとのこと。

この記事では、その「筋肉系の怪我」に焦点を当て、どのような状態が考えられ、私たち治療家がどのようにアプローチできるのかを、私の臨床経験と最新の知見を交えながらお話しします。
現場で明日から使えるヒントになれば幸いです。
ムバッペに疑われる「筋肉損傷」、その正体とは?
まず、報道されている「筋肉系の怪我」とは具体的に何でしょう?
サッカー選手、特にムバッペ選手のように爆発的なスプリントと急激な方向転換を繰り返すプレイヤーに多い損傷を考えてみます。
考えられる2つの主要な損傷タイプ
- ハムストリングス(太もも裏)の肉離れ:
全力疾走時に最も発生リスクが高まります。
最近のスポーツ医学の研究でも、スプリント速度が速い選手ほど、ハムストリングスに大きな負荷がかかり、部分断裂を起こしやすいことが指摘されています。 - 内転筋(太もも内側)の損傷:
激しいサイドステップやキック動作で負傷することが多いです。
サッカー選手に非常に頻発する筋肉の怪我の一つです。
有名なスポーツ医科学の研究者、Dr. ティモシー・ハウエルの言葉を借りれば、「最高のパフォーマンスを発揮する筋肉は、常に最大のリスクと隣り合わせにある」。まさに、ムバッペ選手のプレースタイルを象徴する言葉だなと感じます。
損傷の程度を見極める「グレード分類」
現場で役立つのは、損傷の重症度を推し量るグレード分類です。
| グレード | 症状の目安 | 回復までの目安 | 施術の焦点 |
|---|---|---|---|
| グレード1(軽度) | 軽い痛み、可動域はほぼ全可動。歩行可能。 | 1~3週間 | 炎症抑制、微小損傷の修復促進 |
| グレード2(中等度) | 明らかな痛み、歩行や伸展で痛みが増す。部分的断裂。 | 3~8週間 | 瘢痕組織の質の改善、再受傷予防 |
| グレード3(重度) | 鋭い痛み、筋収縮不能。完全断裂の可能性。 | 8週間以上 | 外科的処置後のリハビリサポート |
実は私も長年、この「グレード2」の判断に苦心してきました。
見た目ではわからない、患者さんの「歩き方のほんの少しの違和感」を見逃さない感覚が、臨床経験を重ねることでようやく身についてきたんです。
急性期から競技復帰まで:効果的な施術アプローチ
では、このような筋肉損傷に対して、私たち柔整師やトレーナーはどのように関われるでしょうか?
怪我のフェーズに分けて考えてみましょう。
急性期(受傷~数日):RICE処置と「制限された動き」の重要性
受傷直後は、皆さんご存知のRICE(安静、冷却、圧迫、挙上)が基本です。
しかし、最近の研究では「完全な安静」よりも「制限された範囲での早期運動開始」が、治癒を早め、筋萎縮を防ぐという流れになっています。
ここで、私が以前担当したアマチュアサッカー選手の例が思い出されます。
ハムストリングスを痛めた彼に、痛みの出ない範囲でごく軽いストレッチとアイソメトリック収縮(筋肉の長さを変えずに力を入れる)を指導したところ、従来の「じっと安静」よりも明らかに回復が早かったのです。
本人から「動かせる安心感が全く違った」というフィードバックをもらえました。
回復期(数日~数週間):手技療法と運動療法の融合
腫れや熱感が引いてきたら、施術の本領発揮です。
- 手技療法:
深部の癒着を防ぎ、血流を改善するために、損傷部位周囲の筋肉に対するマッサージや筋膜リリースが有効です。
筋肉の怪我の後は、どうしても周囲組織が硬くなりがちですからね。 - 運動療法の段階的導入:
- 無負荷のストレッチ
- 軽い抵抗を使った筋力トレーニング(セラバンド等)
- ウォーキングからジョギングへの移行
- 方向転換やスプリントを含むスポーツ特異的動作
この段階で重要なのは、「痛みを我慢して動かす」のではなく、「痛みの全く出ない範囲で、神経と筋肉のつながりを再教育する」という意識です。
私自身、子どもに運動を教える時も同じことを言っているな、とふと気づきます。
競技復帰期:再受傷予防のためのコンディショニング
ここが最も重要で、かつ見落とされがちなフェーズです。
怪我をした筋肉そのものだけでなく、体全体のバランスを見直す絶好の機会です。
- 体幹(コア)の安定性強化:体幹が弱いと、四肢の筋肉に過剰な負担がかかります。
- 拮抗筋のバランス調整:ハムストリングスを痛めたなら、大腿四頭筋(太もも前)の柔軟性や臀部の筋力もチェックします。
- フィールド復帰テスト:直線ダッシュだけでなく、45度や90度のカッティング動作を含めた総合的な評価が必要です。
プロアスリートの事例から学ぶ、私たちにできること
ムバッペ選手のようなトップアスリートは、最新の医療スタッフに囲まれています。
では、私たち一般の治療家やトレーナーに何ができるのでしょうか?
私の個人的な気づきですが、「超一流のケガの管理」の原理原則は、地域のアマチュア選手や運動愛好家にも全く同じように応用できるということです。
違いはスケールだけ。
基本的な「筋肉損傷」への生物学的反応と治癒のプロセスは万人に共通しています。
私たちの強みは、選手とじっくり向き合う時間と、日常生活からスポーツ動作までを含めた総合的な視点で体を評価できることです。
「この痛みは、普段の仕事の姿勢から来ているのかもしれないね」といった気づきを提供できるのは、現場に立つ私たちならではなんです。
まとめ:不確実性の中でも、確かな知識を武器に
キリアン・ムバッペ選手の実際の診断はチーム以外にはわかりません。
しかし、報道から「筋肉系の怪我」という情報を得た私たち治療家は、そこから可能性を考え、効果的なアプローチを学び、準備することができます。
これは、どんな患者さんが来院されても対応できる礎になります。
今回のニュースをきっかけに、ぜひご自身の筋肉損傷への施術の引き出しを増やし、地元の選手たちを支える確かな技術を磨いていきましょう。
以下、参考になりそうな文献をご紹介します。
海外の文献・資料
- 「Hamstring Injuries in Sport: Diagnosis, Treatment and Return to Play」 (Bruce Hamilton, 著)
- サッカーを含むスポーツで頻発するハムストリングス損傷に特化した書籍。
損傷メカニズム、画像診断、段階的リハビリプログラムについて詳細に解説されており、筋損傷のグレード分類や回復期の運動療法の根拠となります。
- サッカーを含むスポーツで頻発するハムストリングス損傷に特化した書籍。
- 「The FIFA 11+」 傷害予防プログラム (FIFA Medical Assessment and Research Centre)
- 国際サッカー連盟(FIFA)が公式に推奨する傷害予防プログラム。
サッカー選手の筋肉損傷、特に下肢の怪我を減らすエビデンスがあり、記事で触れた「再受傷予防のためのコンディショニング」や体幹強化の理論的基礎として。
- 国際サッカー連盟(FIFA)が公式に推奨する傷害予防プログラム。
- 「Muscle Injury Guide: Prevention and Recovery」 (UEFA)
- 欧州サッカー連盟(UEFA)が発行するガイドライン。
プロサッカー選手の筋肉損傷の予防、診断、復帰までのプロトコルをまとめており、ムバッペのようなトップアスリートの傷害管理の実際を理解する上で有用な資料です。
- 欧州サッカー連盟(UEFA)が発行するガイドライン。
- 記事: 「Acute Muscle Injury: From Pathogenesis to Treatment」 (Journal of Sports Sciences)
- 筋肉急性損傷の病態生理から治療法までをまとめた学術レビュー論文。
記事内で説明した「RICE処置から制限された早期運動へのシフト」という現代的なアプローチの科学的根拠となる重要な文献です。
- 筋肉急性損傷の病態生理から治療法までをまとめた学術レビュー論文。
日本の文献・資料
- 「スポーツ外傷・障害のクリニカルサイン」 (日本臨床スポーツ医学会 編)
- スポーツ傷害の診かたと治療方針を、豊富な写真と図で解説した実践書。
ハムストリングスや内転筋の損傷を見極めるための触診や動作観察のポイントを学ぶことができ、記事内の「観察ポイント」セクションの基盤となりました。
- スポーツ傷害の診かたと治療方針を、豊富な写真と図で解説した実践書。
- 「スポーツによる筋損傷の画像診断」 (日本放射線学会雑誌 特集)
- 超音波(エコー)やMRIを用いた筋肉損傷の評価法を詳説する論文。
損傷の範囲や程度(グレード)を客観的に判断する方法についての知識は、記事中のグレード分類表の作成に参考にしています。
- 超音波(エコー)やMRIを用いた筋肉損傷の評価法を詳説する論文。
- 「柔道整復学 各論」 (社団法人全国柔道整復学校協会)
- 柔道整復師養成課程の標準教科書。
肉離れ(筋断裂) に対する伝統的な固定法や手技療法の基礎理論が記載されており、柔道整復師等の治療家が基礎とする知識が記載されています。
- 柔道整復師養成課程の標準教科書。
- 「鍼灸治療によるスポーツ外傷のアプローチ」 (日本鍼灸学会誌 関連論文)
- 筋肉損傷に対する鍼やお灸の効果を検証した研究論文。
疼痛緩和や血流改善、治癒促進を目的とした東洋医学的アプローチについての知見は、手技療法の選択肢の一つとして重要な視点を与えてくれます。
- 筋肉損傷に対する鍼やお灸の効果を検証した研究論文。
専門書(国内外)
より広範なスポーツ医学の知識を提供する総合的な書籍です。
- 「DeLee & Drez’s Orthopaedic Sports Medicine」 (5th Edition)
- スポーツ整形外科の世界的バイブルとも言える大著。
あらゆるスポーツ傷害について、膨大なエビデンスに基づく診断・治療法が網羅されており、信頼性の高い書籍です。
- スポーツ整形外科の世界的バイブルとも言える大著。
- 「アスレティックトレーナー ハンドブック」 (日本スポーツ協会 監修)
- 日本のスポーツ現場で広く用いられている実践マニュアル。
傷害発生時の応急処置(RICE)から、競技復帰までの段階的リハビリテーションプログラムまでを具体的に示しており、記事の「急性期から競技復帰まで」のフローチャートを構築するのに役立ちました。
- 日本のスポーツ現場で広く用いられている実践マニュアル。


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