こんにちは、治療家Zです。
「分子栄養学」連載、いよいよ第3回です。
第1回: 身体の材料となる「タンパク質」と「鉄」を満たす。
第2回: 栄養の入り口である「腸(リーキーガット)」を修復する
ここまでで、患者さんの身体には「良質な材料」が届く準備が整いました。
しかし、現場ではまだこんな壁にぶつかることがあります。
「先生、栄養も気をつけているのに、まだ身体が重いんです」 「筋肉の奥に、ほぐしでは取れない『芯のような硬さ』を感じる」
なぜでしょうか? それは、せっかく届けた燃料を燃やすための「エンジン」自体が、焦げ付いて動かなくなっているからかもしれません。
今回のテーマは、細胞内の発電所「ミトコンドリア」と、それを破壊する最大の敵「糖化(AGEs)」。
マッサージ(物理刺激)だけでは届かない、細胞レベルの「柔軟性」の話をしましょう。
あなたの筋肉は「ホットケーキ」のように焦げている
「糖化(とうか)」という言葉をご存知でしょうか? アンチエイジングの世界では「身体の焦げ」とも呼ばれます。
メイラード反応の恐怖
ホットケーキを焼くと、こんがりときつね色になり、表面が硬くなりますよね。
あれは、小麦粉の「糖」と、卵や牛乳の「タンパク質」が熱によって結びついた結果です(メイラード反応)。
これと同じことが、人間の体温(37度前後)でもゆっくりと進行しています。
食事で摂りすぎた余分な「糖質(血糖)」が、身体を構成する「タンパク質(筋肉や血管)」にベタベタとこびりつくのです。
最終糖化産物「AGEs」
この糖化したタンパク質は、やがてAGEs(エージーイー:終末糖化産物)という、一度できたら元に戻らない強力な「焦げの塊」に変化します。
治療家として注目すべきは、このAGEsが蓄積する場所です。
- 血管や皮膚(コラーゲン): 弾力が失われ、血管が脆くなり、肌はたるむ。
- 筋肉や筋膜: 組織が繊維化し、「ジャーキー」のように硬くなる。
いくら外側から指圧や鍼で緩めようとしても、組織の繊維そのものが砂糖漬けになって変質していたら、すぐに元の硬さに戻ってしまうのは当然です。
ミトコンドリア発電所を止める「糖質の渋滞」
糖化の被害は「硬くなる」だけではありません。
私たちが活動するためのエネルギー生産(ATP産生)をもストップさせます。
私たちの細胞の中には、「ミトコンドリア」という小さな発電所があり、その中の「TCA回路(クエン酸回路)」というエンジンを回してエネルギーを作っています。
しかし、糖質過多やAGEsの蓄積は、この精密なエンジンの歯車を狂わせます。
- 燃料過多: 糖質を摂りすぎると、エンジンの処理能力を超えて「渋滞」が起きる。
- 機能不全: 蓄積したAGEsがミトコンドリア自体を攻撃し、発電能力を低下させる。
結果どうなるか? 「食べているのに元気が出ない」「寝ても疲れが取れない」 これは、カロリーは足りていても、細胞内の発電所がシャットダウンしている状態なのです。
エンジンを回す「点火プラグ」と「潤滑油」
では、焦げ付いて止まりかけたエンジンを、どうやって再起動させるのか?
ここで絶対に必要になるのが、「補酵素(コエンザイム)」です。
① 代謝の着火剤「ビタミンB群」
糖質や脂質をエネルギーに変えるためには、それぞれの工程でビタミンB群(B1, B2, B6, ナイアシンなど)が必須です。
これらが不足すると、燃料は燃やされず、代わりに「乳酸」などの疲労物質として蓄積します。
- キーワード: ナイアシン(ビタミンB3)は、ミトコンドリアの電子伝達系において特に重要です。
② 奇跡のミネラル「マグネシウム」
TCA回路が1周回る間に、なんと7〜8ヶ所でマグネシウムが関与しています。
マグネシウムという「潤滑油」がなければ、エンジンはピクリとも動きません。
しかし、現代人は精製塩やストレス過多により、マグネシウムが圧倒的に不足しています。
食事やサプリメントでの摂取はもちろんですが、治療家の先生におすすめしたいのが「経皮吸収」のアプローチです。
- エプソムソルト入浴: 硫酸マグネシウムを入れたお風呂に浸かる。
- マグネシウムオイル: 硬結のある筋肉に直接塗布する。
「施術の効果を持続させるためのホームケア」として、これほど理にかなったものはありません。
【重要】薬機法を守った「伝え方」の技術
ここでも「薬機法(旧薬事法)」には注意が必要です。
サプリメントや入浴剤を紹介する際、「若返る」「糖化が治る」とは言えません。
× NGトーク(違法表現)
「このサプリで血管が若返りますよ」 「AGEsを除去して、動脈硬化を治します」
○ OKトーク(事実とサポート)
「糖質の摂りすぎは、身体の『焦げ(糖化)』の原因になり、美容と健康の大敵です。
ビタミンB群は、糖質をスムーズにエネルギーへ変換する『代謝』を助ける働きがあります。
マグネシウムは筋肉の働きに深く関わるので、こむら返り予防やコンディション維持におすすめですよ。」
まとめ:「中」から焦げを取らないと意味がない
- 糖化(AGEs): 組織を「ジャーキー」のように硬くし、老化させる原因。
- ミトコンドリア: 糖化によって発電能力が落ちると、慢性疲労になる。
- 解決策: 糖質を控え、ビタミンB群とマグネシウムでエンジンを回す。
「外側からの物理的なアプローチ(施術)」と、「内側からの生化学的なアプローチ(栄養)」。
この両輪が噛み合った時、患者さんの身体は本当の意味で「緩む」ことができます。
さて、次回はいよいよ最終回。
これらを治療院のメニューとしてどう展開するか? 【経営・実践編】「『プロの提案』としてのサプリメント|物販の正解とリスク管理」をお届けします。
参考文献リスト
本記事は、以下の医学的知見および研究論文に基づき執筆されています。
1. 糖化(AGEs)と筋骨格系の老化・機能低下について AGEsはコラーゲンの架橋形成を異常にし、骨や筋肉の質(柔軟性)を低下させることが多くの研究で示唆されています。
- Yamagishi, S., et al. (2005). Advanced glycation end products (AGEs) and their receptor (RAGE) system in the pathogenesis of diabetes and its complications. Current Drug Targets.
- J-Stage: 糖化ストレスとアンチエイジング(日本抗加齢医学会雑誌)
2. ミトコンドリア機能とビタミンB群の役割 ビタミンB群(特にチアミン、リボフラビン、ナイアシン)は、ミトコンドリア内でのエネルギー産生(TCA回路)における必須の補酵素です。
- Depeint, F., et al. (2006). Mitochondrial function and toxicity: Role of the B vitamin family on mitochondrial energy metabolism. Chemico-Biological Interactions.(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16765926/)
3. マグネシウムとエネルギー代謝 マグネシウムはATP(アデノシン三リン酸)が生物活性を持つために結合する必要があるミネラルであり、解糖系およびTCA回路の酵素反応に不可欠です。
- Pilchova, I., et al. (2017). The Involvement of Mg2+ in Regulation of Cellular and Mitochondrial Functions. Oxidative Medicine and Cellular Longevity.(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5525381/)





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