こんにちは、柔道整復師の治療家Zです。
開業して十数年、臨床経験20年。
現在は行政書士の学習を通じ、「法務(リスク管理)」と「医療」の統合を目指して活動しています。
さて、先生方は日々の臨床で、物理療法機器をどのように選んでいるでしょうか?
- 「とりあえず腰が痛いからマイクロ波」
- 「最新のラジオ波を買ったから、全員にラジオ波」
- 「拘縮にはなんとなく超音波」
もし、このような「思考停止の選択」をしているとしたら、それは非常に勿体ないことです。
なぜなら、それぞれの深部温熱療法 機器は、熱を発生させる「物理学的メカニズム」が全く異なり、ターゲットにできる「深さ」と「組織」が明確に決まっているからです。
本連載では、全5回にわたり、物理療法の「なぜ?」を深掘りしていきます。
第1回は、超音波(US)、ラジオ波(RF)、マイクロ波(MW)の3大機器について、カタログスペックではなく「エネルギー変換」の視点から比較検討します。
「熱を与える」のではなく「熱を生ませる」
まず前提として、ホットパックや赤外線などの「表在熱(伝導熱・放射熱)」と、今回扱う「深部熱」の決定的な違いを確認しましょう。
表在熱は、外部の熱エネルギーを皮膚から内部へ伝えようとするものです。
しかし、皮下脂肪という強力な断熱材があるため、深部(筋層や関節包)の温度はほとんど上昇しません。
対して、深部温熱療法 機器の最大の特徴は、「エネルギー変換(Conversion)」です。
音波や電磁波といったエネルギーを体内に透過させ、体内の組織そのものを振動・摩擦させることで、身体の内側から熱を発生(内部発熱)させます。
この「どうやって内部発熱させるか」の方式の違いこそが、臨床での使い分けの全てです。
- 超音波(US): 機械的振動による摩擦熱
- ラジオ波(RF): ジュール熱(電気抵抗)
- マイクロ波(MW): 誘電加熱(分子の回転)
それぞれの特性を見ていきましょう。
超音波(US):ピンポイントの「狙撃手」
超音波(Ultrasound)は、圧電素子(クリスタル)の振動によって生じる「機械的振動エネルギー」を利用します。
要するに、1秒間に100万回(1MHz)または300万回(3MHz)という高速の「マッサージ」を細胞に加え、その摩擦で熱を生み出す仕組みです。
ターゲット:コラーゲン含有率の高い組織
超音波は、水分が多い組織(血液や筋腹)は透過しやすく、密度が高く硬い組織で吸収されやすい性質があります。
つまり、「靭帯、腱、関節包、骨膜、瘢痕組織」といったコラーゲン線維が豊富な組織がメインターゲットとなります。
到達深度と半価層
超音波には「周波数」による深度の使い分けがあります。
ここで重要になるのが「半価層(エネルギーが半分になる深さ)」です。
- 3MHz(浅部): 半価層は約2.5cm。表層の筋膜や浅い靭帯に適しています。
- 1MHz(深部): 半価層は約5.0cm。深い関節包やインナーマッスルまで到達します。
他の深部温熱療法 機器と比較して、超音波は「最も深くまで、かつ局所的に」エネルギーを届けることができる「スナイパーライフル」のような存在です。
🔬【根拠となる文献:超音波の深達度】
- 文献: Draper DO, et al. Rate of temperature increase in human muscle during 1 MHz and 3 MHz continuous ultrasound. J Orthop Sports Phys Ther. 1995.
- URL:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/7581432/
- 解説: 1MHzと3MHzの周波数の違いによる、人体の筋肉内温度上昇率を比較した古典的かつ重要な研究。1MHzの方が深部まで到達し、温度上昇を持続させることが示されています。
ラジオ波(RF):広範囲を包む「面ヒーター」
近年、治療院業界で急速に普及しているのがラジオ波(Radio Frequency)です。
これは300kHz〜1MHz程度の「高周波電流」を体内に流すものです。
メカニズム:ジュール熱
電流が体内の細胞や組織を通過する際、そこにある「電気抵抗(インピーダンス)」によって熱が発生します。
これをジュール熱と呼びます。
電気の通りにくい場所(抵抗が高い場所)ほど熱が発生しやすくなります。
2つのモード:CETとRET
多くのラジオ波機器には、電極の違いによって2つのモードがあります。
- CET(容量結合型): 絶縁された電極を使用。皮膚表面に近い、水分の多い組織(筋・血管)で熱が発生しやすい。
- RET(抵抗結合型): 絶縁されていないステンレス等の電極を使用。電流が深くまで貫通し、**抵抗の高い「骨、腱、内臓脂肪、深層筋」**で熱が発生します。
超音波が「点」のアプローチなら、ラジオ波は、電流の流れるルート全体を発熱させる「立体的な加温(Volume Heating)」です。
循環改善や、広範囲の筋スパズム(腰痛など)に対して、深部温熱療法 機器の中でも特に優れた効率を発揮します。
【根拠となる文献:ラジオ波の生理学的作用】
文献: Kumaran B, Watson T. Radiofrequency-based treatment in therapy-related clinical practice – a narrative review. Physical Therapy Reviews. 2015.
URL:https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1179/1743288X15Y.0000000016
解説: 物理療法の権威であるTim Watson博士らによるレビュー。ラジオ波(448kHzなど)が深部組織の温度を上昇させ、血流増加や細胞代謝の活性化を引き起こすメカニズムが詳述されています。
マイクロ波(MW):水分子を揺らす「電子レンジ」
マイクロ波(Microwave)は、極超短波(2450MHz)と呼ばれる電磁波を使用します。
これは家庭用の電子レンジと全く同じ原理です。
メカニズム:誘電加熱
電磁波が体内の「極性分子(プラスとマイナスを持つ分子)」、つまり「水分子」を激しく回転させます。
その回転摩擦によって熱が発生します。
ターゲット:水分の多い組織
マイクロ波は、水分含有率の高い「筋肉(筋腹)」や「血液」で急速に吸収されます。
逆に、水分の少ない脂肪層は通過しますが、脂肪層と筋肉の境界(インピーダンスの変わり目)で反射し、過熱しやすいという特徴(ホットスポット)もあります。
深部温熱療法 機器としては、「服の上から照射できる」「非接触で広範囲を温められる」という利便性がありますが、到達深度は3〜4cm程度で、皮下脂肪の厚さに大きく影響を受けます。
【法務的視点】リスク管理としてのMW
法務を学ぶ私の視点から一つ注意喚起です。
マイクロ波は、金属(インプラント、ネックレス、ブラジャーのワイヤー)に反応して異常加熱を起こし、重篤な熱傷事故に繋がるリスクが最も高い機器です。
また、知覚脱失部位への照射による低温火傷の訴訟事例も過去に存在します。
「手軽だから」と漫然と使うのではなく、問診と禁忌の確認を徹底する必要があります。
比較まとめ:プロは「インピーダンス」で選ぶ
ここまで3つの機器を見てきました。
臨床での選択基準を、「組織のインピーダンス(抵抗/密度)」と「深さ」のマトリクスで整理しましょう。
| 機器 | エネルギー | メインターゲット | 到達深度 | 臨床での役割 |
| 超音波 (US) | 機械的振動 | 高密度組織 (腱・靭帯・関節包・骨膜) | 深 (〜5cm) ※1MHzの場合 | 局所の拘縮除去 疼痛緩和、組織修復 |
| ラジオ波 (RF) | 電流 (ジュール熱) | 抵抗組織 (RET) & 水分組織 (CET) | 全層 (貫通) 電極間に依存 | 広範囲の循環改善 自律神経調整、代謝UP |
| マイクロ波 (MW) | 電磁波 (誘電加熱) | 高水分組織 (筋腹・血液) | 中 (3〜4cm) 脂肪層で減衰 | 筋スパズム緩和 プレヒート(予備加温) |
結論:何を目的にするのか?
- 「凍結肩の関節包を緩めたい」なら、深部温熱療法 機器として最強の深度を持つ超音波(1MHz)一択です。
- 「慢性的な腰痛で、脊柱起立筋から多裂筋まで広範囲に血流を良くしたい」なら、ラジオ波が最適解です。
- 「部活生の肉離れ後のリハビリで、太もも全体を温めて柔軟性を出したい」なら、マイクロ波またはラジオ波(CET)が有効でしょう。
このように、患者さんの病態生理(どこの組織が、どうなっているか)に合わせて、使用する深部温熱療法 機器を選定することこそが、プロフェッショナルの仕事です。
次回予告
第1回では、各機器の物理的な「性格」の違いを解説しました。
次回からは、それぞれの機器を臨床でどう使い倒すか、具体的な「各論」に入ります。
第2回は、「超音波温熱の真骨頂は『コラーゲン伸展性』にあり」。
ただ当てるだけでは意味がない?
可動域を一気に変えるための「ストレッチ・ウィンドウ」と、具体的な照射方法について深掘りします。
お楽しみに。



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