痛み止めが効かない時の「第3の選択肢」|統合医療で脳を書き換えるロードマップ【連載⑤完】

薬、整体、睡眠、メンタルケアなど、様々な要素のパズルピースが組み合わさって、脳の誤作動がリセットされ健康な体になる様子を描いたイメージイラスト。 一般的な怪我、痛みに関する記事
慢性痛からの回復は、ひとつの「正解(ピース)」だけで決まるわけではありません。医療、整体、そしてあなたの生活習慣が組み合わさることで完成します。

こんにちは、治療家Zです。

「脳と痛み」をテーマにした連載、ついに最終回です。

これまで4回にわたり、痛みの裏側にある驚くべきメカニズムをお話ししてきました。

  • 第1回: 痛みは患部ではなく、脳の誤作動(中枢性感作)が作り出している。
  • 第2回: 気圧の変化が内耳センサーを刺激し、自律神経を暴走させている。
  • 第3回: 不安や恐怖といったストレスが、脳内の天然鎮痛剤(ドーパミン)を枯渇させる。
  • 第4回: 呼吸と睡眠という無料の特効薬が、脳のゴミを洗い流してくれる。

ここまで読み進めてくださったあなたは、もう気付いているはずです。

「腰が痛いからといって、腰だけを揉んでも根本的な改善にはならない」という事実に。

最終回は、これまでの知識を総動員し、慢性痛の改善のために、長引く痛みから卒業するための「統合医療的アプローチ」について解説します。

これは、病院(西洋医学)を否定するものではありません。

病院の治療と、私たちのような整体、そしてあなた自身のセルフケアをどう組み合わせれば「最強の治療チーム」が作れるのか?

その具体的な「回復へのロードマップ」をお渡しします。


なぜ、あなたの痛みに薬が効かないのか?

「病院でロキソニンをもらったけれど、全然効かないんです」 「ブロック注射を打ったその時だけはいいんだけど、すぐ戻っちゃって…」

現場では、このような相談を毎日のように受けます。

なぜ、強力な医療用医薬品が効かないのでしょうか?

それは、あなたが戦っている相手が、もはや「炎症」ではないからです。

「火事」は終わっているのに「警報」が止まらない

一般的な痛み止め(消炎鎮痛剤)は、体の中で起きている「火事(炎症)」を消すための水です。

突き指をして赤く腫れている時や、怪我をした直後には劇的な効果を発揮します。

しかし、3ヶ月以上続く「慢性痛を改善したい」場合、多くはすでに患部の火事は鎮火しています。

それなのに痛いのは、「火災報知器(脳の神経回路)」が壊れて誤作動を起こし、大音量で警報を鳴らし続けているからです。

燃えていない場所にいくら水をかけても(薬を飲んでも)、壊れた警報機を止めることはできません。

必要なのは、水を撒くことではなく、「警報機のシステム修理(脳のリハビリ)」なのです。


世界標準の考え方「生物心理社会モデル(BPS)」

では、どうやって脳のシステムを修理すればいいのでしょうか?

ここで登場するのが、現代の痛み治療における世界標準の考え方、「生物心理社会モデル(Biopsychosocial Model)」です。

舌を噛みそうな名前ですが、要するに「痛みの原因を3つの視点から分析して、包囲網を作ろう」という作戦です。

① 生物学的要因(Bio)

  • 内容: 骨の変形、筋肉の損傷、神経の圧迫など、身体そのものの問題。
  • 対策: 病院での手術や投薬、整体による身体機能の調整。

② 心理的要因(Psycho)

  • 内容: 「このまま歩けなくなるんじゃないか」という不安、恐怖、うつ気分、怒り。
  • 対策: 正しい知識を持つこと(痛みへの認知を変える)、ドーパミンを出す楽しみを見つけること。
    • ※第3回でお話しした通り、不安は痛みのゲートを全開にしてしまいます。

③ 社会的要因(Social)

  • 内容: 職場や家庭でのストレス、経済的な悩み、人間関係、労働環境。
  • 対策: 職場環境の改善、休養、家族の理解を得る、生活リズム(睡眠・食事)の改善。

日本の医療は、どうしても①の「身体」ばかりを見がちです。

しかし、慢性痛を改善させるには、②の「心」と③の「環境」へのアプローチが絶対に欠かせません。 これら全てを組み合わせて行うのが、「統合医療」なのです。

🔬【根拠となる文献:痛みの多面的アプローチ】

  • 文献: 慢性疼痛治療ガイドライン(日本疼痛学会)
  • URL:https://www.jspc.gr.jp/guideline/
  • 解説: 慢性痛は単一の原因ではなく、心理的・社会的要因が複雑に絡み合っているため、「集学的治療(チーム医療)」が最も推奨されると明記されています。

痛みの原因を「身体(Bio)」「心(Psycho)」「社会環境(Social)」の3つの要因が複雑に絡み合ったものとして捉える、生物心理社会モデル(BPSモデル)のベン図。
【図解】現代の痛み治療のスタンダードであるBPSモデル。痛みは身体の問題だけでなく、不安(心)やストレス環境(社会)が重なり合って作られます。

「整体」が脳を書き換えるメカニズム

ここで、私が提供する整体の本当の役割についてお話しさせてください。

私はただ、硬い筋肉をマッサージしてほぐしているわけではありません。(もちろん、気持ちいいと言って寝ていただけるのは嬉しいですが。)

私が施術を通じて行っているのは、「脳への安全信号の送信」です。

「身体図式(ボディ・スキーマ)」のバグを直す

痛みが長く続くと、脳の中にある「自分の身体の地図(身体図式)」が歪んでしまいます。

「腰を動かす=危険!激痛!」という誤ったプログラムが書き込まれてしまうのです。

そこで、プロの手によって皮膚や筋肉、関節に適切な刺激(タッチ)を入れます。

「ほら、ここの筋肉はもう緩んでも大丈夫だよ」 「この関節は、ここまで動かしても安全だよ」

このような「安全な信号」を、神経を通じて脳へ送り続けます。

すると脳は、「あ、もう緊急事態じゃないんだ。動いても大丈夫なんだ」と学習し直します。

その瞬間、長年鳴り止まなかった火災報知器がフッと止まります。

これが、整体によって痛みが改善する医学的なメカニズムです。

決して魔法や気合で治しているわけではありません。

神経生理学に基づいた、脳との対話なのです。

🔬【根拠となる文献:徒手療法と神経系】

  • 文献: The role of manual therapy in the modulation of pain (Journal of Bodywork and Movement Therapies)
  • 解説: 徒手療法(整体など)が、オキシトシンなどの鎮痛物質の分泌を促し、脳の痛みを感じる領域(島皮質など)の活動を鎮静化させることがfMRIなどの研究で示唆されています。

痛みからの卒業ロードマップ(実践編)

では最後に、あなたが今日から実践すべき具体的な手順をまとめます。

ステップ1:まずは「除外診断」(病院の役割)

まだ病院に行っていない人は、必ず一度は検査を受けてください。

「がん」や「骨折」、「感染症」など、緊急の処置が必要な病気(レッドフラッグと言います)がないかを確認するためです。

ここで「異常なし(画像上は問題ない)」と言われたら、ある意味ガッツポーズです。

あなたの痛みは脳の誤作動であり、改善の余地が大いにあるからです。

ステップ2:脳のリハビリ(整体の役割)

ここからは私たちの出番です。

整体を受けて、凝り固まった筋肉を緩め、歪んで認識された脳のマップの骨格を整えます。

同時に、脳に「安全信号」を送り込み、過敏になった警報機を鎮めていきます。

自分では気づけない身体の癖や、呼吸の浅さを指摘してもらうのも重要です。

ステップ3:生活の再設計(あなたの役割)

ここが一番大切です。

施術を受けて楽になっても、家に帰ってまたストレスまみれの生活をしていては元の木阿弥です。

  • 睡眠: 7時間は寝て、脳のゴミを洗う(第4回)。
  • 呼吸: 1日1回、4-7-8呼吸法で自律神経をリセットする(第4回)。
  • 楽しみ: 痛みのことを忘れるくらい没頭できる趣味を見つける(第3回)。

この3つを組み合わせることで、初めて「痛みの悪循環」を断ち切ることができます。


最後に:痛みはあなたの敵ではない

全5回の連載、最後までお付き合いいただきありがとうございました。

最後に一つだけ、お伝えしたいことがあります。

痛みは、あなたを苦しめるために存在しているわけではありません。

「もう少し休んで」「生き方を変えてみて」という、身体からの必死のメッセージです。

痛み止めで無理やり声を封じ込めるのではなく、その声に耳を傾け、脳と身体が本当に求めているケアをしてあげてください。

私たちは神様ではないので、長年の痛みを一度で「完治」させる魔法は使えません。

しかし、あなたが諦めない限り、痛みが「改善」し、笑顔で生活できる日が来るまで、二人三脚で伴走し続けることは約束できます。

もし、一人で抱え込んで出口が見えなくなっているなら、いつでも生まれ変われるという希望を持ってください。

まずは、深呼吸を一つ。

あなたの脳は、いつからでも変われる力を持っています。

治療家Z



この記事を書いた人

臨床20年の柔道整復師 × 法律家(学習中)|身体と暮らしを守る専門家

はじめまして、治療家Zと申します。 柔道整復師(国家資格)として開業し、十数年。これまでの20年間で延べ6万人以上(①ヶ月300人程なので、合っていると思います)の患者様の治療に携わってきました。

現場で多くの「痛み」と向き合う中で痛感したのは、「正しい医療知識」と「生活を守る法律知識」の両方がなければ、本当の意味で患者様の不安を取り除くことはできないということです。

そのため、臨床の傍ら法務の学習も進め、2025年には宅地建物取引士試験に合格。現在は2026年の行政書士試験合格を目指し、日々研鑽を積んでいます。

このブログでは、単なる健康情報の発信にとどまらず、解剖学・生理学等に基づいた「確かな医療知識」と、薬機法や関連法規を遵守した「信頼できる情報」を、柔整と法務のダブル視点からお届けします。

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