エネルギー満タンの「暴走車」になっていませんか?
こんにちは、治療家Zです!
前回の「ミトコンドリア編」、力を入れて執筆してみましたが、読んでいただけましたか?
反響が良いといいののですが…
「早速マイクロカレント使ってみよう!」と思っていただければ嬉しいです!
さて、前回は「細胞を充電してエネルギー(ATP)を満タンにしよう」という話をしました。
でも、ここで少し想像してみてください。
ガソリン満タンで、エンジン出力全開のスポーツカーがあるとします。
もし、その車のハンドルとブレーキが壊れていたら、どうなるでしょうか?
…間違いなく、大事故を起こしますよね。
人間の体も同じなんです。いくら細胞が元気になっても、そのエネルギーをどこに向けるかを決める「制御システム」が乱れていたら、「治癒」どころか「慢性痛」や「炎症」という形で体が暴走してしまうことがあるんです。
今回のテーマは、その制御システムである「自律神経」
特に、脳と体をダイレクトにつなぐ最強の神経、「迷走神経」を物理的にハッキングする方法について、深掘りしていきます。
これをマスターすれば、先生の施術は「充電」から「操縦」へと進化しますよ!

自律神経のアップデート:「アクセルとブレーキ」はもう古い?
私たちが学校で習った自律神経といえば、「交感神経(アクセル)と副交感神経(ブレーキ)のバランスが大事」というシーソーのようなモデルでしたよね。
もちろん間違いではないんですが、最新の神経科学、特に「ポリヴェーガル理論(多重迷走神経理論)」の登場によって、この常識が大きくアップデートされているんです。
ブレーキには「2種類」あった!
ポリヴェーガル理論の核心は、これまで一括りにされていた副交感神経(迷走神経)が、実は進化の過程で「新しいブレーキ」と「古いブレーキ」の2つに分かれている、という点です。
- 交感神経(アクセル): 「闘争・逃走」反応。危険に立ち向かうか逃げるか。心拍数を上げ、筋肉に血流を送る。
- 腹側迷走神経(新しいブレーキ): 「社会交流」システム。安心・安全を感じている時に働き、人と表情豊かに交流したり、リラックスしたりする。これが目指すべき理想の状態。
- 背側迷走神経(古いブレーキ): 「凍結(フリーズ)」反応。逃げ場のない究極の恐怖を感じた時に、スイッチが切れたように動けなくなる(シャットダウン)。爬虫類などが敵の前で死んだふりをするアレです。
臨床で出会う「何をしても治らない慢性痛の患者さん」は、アクセル全開(交感神経優位)か、あるいはこの「古いブレーキ(背側迷走神経)」が効きすぎて、システムがフリーズしている状態のことが多いんです。
私たちの目的は、患者さんの神経モードを、安心・安全な「新しいブレーキ(腹側迷走神経)」へと物理的に切り替えてあげることです。
参考文献:
- Porges, S. W. (2011). The Polyvagal Theory: Neurophysiological Foundations of Emotions, Attachment, Communication, and Self-regulation. W. W. Norton & Company. Norton出版社 書籍ページ (スティーブン・ポージェス博士によるポリヴェーガル理論の原著。理論の基礎となる記念碑的書籍。)
- 花丘ちぐさ (翻訳), S.W.ポージェス (著) (2018). 『ポリヴェーガル理論入門: 心身を変革する協力のために』. 春秋社. 春秋社 書籍ページ (難解な理論を、臨床家向けに分かりやすく解説した入門書の日本語版。まずはここから読むのがおすすめ。)
脳への物理的ショートカット:「耳」が鍵を握る理由
では、どうやってその「新しいブレーキ(腹側迷走神経)」のスイッチを入れるのか?
ここで登場するのが、私が臨床で多用している「耳へのアプローチ」です。
「え、耳? ツボ押しの話?」と思われたかもしれませんが、もっと物理学的な話です。
迷走神経の「唯一の抜け道」
迷走神経は、脳幹から出て内臓まで伸びる非常に長い神経ですが、そのほとんどは体の中を通っています。
しかし、唯一、体の表面に出てきている場所があるんです。
それが、「耳介(じかい)」です。
具体的には、耳の穴の周りのくぼみ(耳甲介)や、耳の穴の前にある小さな突起(耳珠)のあたりには、「迷走神経耳介枝(ABVN)」という枝が分布しています。
ここへの物理的な刺激(接触、圧、微弱電流など)は、脊髄を経由せずに、ダイレクトに脳幹の「孤束核(NTS)」という情報処理センターへと伝わります。
これは、脳への裏口入力、まさに物理的な「ショートカット」なんです。
この仕組みを利用したのが、taVNS(経皮的迷走神経刺激)という治療法です。
専用の機械で耳に微弱な電気を流すことで、脳の興奮を鎮め、強制的にリラックスモード(腹側迷走神経優位)へと誘導します。

参考文献:
- Butt, M. F., et al. (2020). “The anatomical basis for transcutaneous auricular vagus nerve stimulation.” Journal of Anatomy, 236(4), 588–611. PubMed: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31654445/ (ヒトの耳介における迷走神経の走行を詳細に解剖した研究。taVNSのターゲットとなる部位を解剖学的に特定しており、耳甲介(Cymba/Cavum)への分布を裏付ける重要論文。)
- Ellrich, J. (2011). “Transcutaneous vagus nerve stimulation.” European Neurological Review, 6(4), 254-257. ResearchGate (Full Text available): Link to article (taVNSの原理と臨床応用に関する初期のレビュー論文。非侵襲的な脳神経刺激法としてのメカニズムと可能性を論じている。)
臨床実践:「首」の物理的インピーダンスを解除する
耳への刺激とセットで必ず行ってほしいのが、「首」へのアプローチです。
迷走神経は脳幹から出て、首の左右にある「頚動脈鞘(けいどうみゃくしょう)」という管の中を、内頚動脈や内頚静脈と一緒に通っています。
首コリは「神経の絞扼」である
もし、患者さんの首の筋肉(胸鎖乳突筋や斜角筋など)がガチガチに凝り固まっていたら、どうなるでしょうか?
物理学的に見れば、これは「組織のインピーダンス(抵抗)」が高い状態です。
この高い圧力が、迷走神経を物理的に締め付け(絞扼)、信号の流れを阻害してしまいます。
これでは、いくら耳から良い信号を送っても、途中でノイズが混じったり、届かなかったりします。
ここで有効なのが、第1回でも触れた物理療法(ラジオ波・高周波)です。
徒手療法では届きにくい深層筋のインピーダンスを、熱エネルギーで物理的に低下させ、迷走神経の通り道を解放してあげる。
これができて初めて、脳と体の通信が正常化するのです。
参考文献:
- Bove, G. M., & Light, A. R. (1997). “The ensheathed vagus nerve: structure and potential for interaction with surrounding tissues.” Journal of the Autonomic Nervous System, 64(3), 117–128. PubMed: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9223123/ (迷走神経が周囲の組織、特に頚動脈鞘内でどのような構造で存在し、周囲の筋緊張(インピーダンス上昇)からどのような物理的影響を受ける可能性があるかを論じた基礎研究。)
まとめ:充電(ミトコンドリア)×制御(神経)=最強の臨床家
いかがでしたでしょうか?
今回は、ポリヴェーガル理論という新しい地図を片手に、耳と首から脳の制御システムに介入する方法をお伝えしました。
- 第1回:ミトコンドリアで細胞を「充電」する(エネルギー確保)。
- 第2回:迷走神経を整えてエネルギーを「制御」する(方向付け)。
この2つが揃って初めて、患者さんの体は「治癒」という目的地に向かって力強く走り出します。これが、物理学と神経科学に基づいた、これからの時代の徒手療法です。
さて、技術はこれで完璧…と言いたいところですが、私たちプロにはもう一つ、絶対に避けて通れない壁があります。
それは「法律」と「リスク」の壁です。
高度なアプローチをすればするほど、説明責任やリスク管理も高度になります。
次回はシリーズ第3弾、【法務・リスク管理編】「治療家のためのリーガル・ディフェンス」をお届けします。
行政書士(勉強中デスガ…)の視点から、先生と患者さんを守る「最強の盾」の作り方を伝授します。
同意書(施術同意書)一枚で、未来が変わるかもしれませんよ。
それでは、また次回お会いしましょう!
治療家Zでした。



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